脳梗塞で入院した
32歳のある日、俺は脳梗塞で入院したんだ。
俺の担当医の先生は毎日優しく話しかけてくれて、俺の世間話にもよくつきあってくれるんだ。
先生は腕もピカイチらしく、人もよくて、そのうえ容姿もカッコイイらしい。
まさにスーパードクターだ。そんな噂もあったので、
「すぐに手術お願いします」
って言ったよ。
無事手術終了。でも、おかしい。なにかがおかしい気がする。見えてないんだよ。目が。
それで俺は先生に言い寄ったよ。
「なんですかこれは。何がスーパードクターだ!人をバカにしやがって!慰謝料払えよ!」
って。まあ今思えば言い過ぎかもしれない。
なんせ俺の病気は、普通の医者では治せないようなものだったらしいからね。
でも、俺は泣いたよ。涙枯れるまで泣いた。
だって結婚してまだ2年の嫁さんの姿も、
これから生まれてくる子どもの顔ももう見れないんだから。
それから1週間して、またそのドクターのとこに行ったんだ。
いくらなんでも言い過ぎたと思って。
「治してもらったのにあんなことを言ってしまって、すみませんでした」
俺はすぐ謝った。
それから5秒間の間。ドクターが、泣きながらこう言ったよ。
「いや、私こそすまない・・。完全に治すことは出来なかったみたいだね・・。」
本当にドクターはやさしいなと思ったよ。
そして俺は、はにかみながら言ったんだ。
「命に比べたら、目が見えなくなったからってどうってことないですよ。」
って。
そしたら今度は、すかさずドクターが言った。
「ほら・・ほらね・・やっぱりまだ治ってないんだね・・すまない・・」って。
俺は気づいた。俺はなんて重大な勘違いをしてたんだと。
俺は思った。ドクター有難う。謝らないといけないのは僕の方です。
そして、一番優しいのは、こんな俺と結婚してくれた妻なんだと。
【解説】
最初に、『容姿もカッコイイらしい』と彼は言っている。
つまり、彼は最初から目が見えなかった。でもそれを忘れてしまっている。
彼は手術によって記憶喪失になったのだ。
圭一(ばあさんはいつ俺を見て気に入ったんだ?面識ないぞ!)
魅音(どこかで見かけた記憶があって、印象に残っているって言ってた。)
レナ(魅~ちゃんの作り話じゃないのかな、かな。卑怯だよ、御家柄を武器にするなんて!)
レナはいつの間にか豹変していた。
圭一(まあ、待て。ようは俺以外にもばあさんがひなみざわの中に素晴らしい男たちがいるということを知ればいいわけだろ!)
魅音(はあ~?)
レナ(魅~ちゃん争奪大会開催決定だね、だね!)
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